考え方と歴史

松前健著「日本の神々」を読む イザナギとイザナミ③

天空神と地母神

天空神とは天空や世界を創造した神様で、地母神とは大地の神様です。

イザナギは左右の目から、それぞれアマテラスとツクヨミを生み出しました。これは、太陽と月を天空の両目と考える古い信仰なのです。マオリ族は、太陽と月は天空神ランギの子であり、天空の目として天上界に置かれたと信じています。ハーヴェイ諸島でも、太陽と月は天空神ヴァイテアの両目になっています。

このように他民族の神話と比較すると、イザナギは天空神としての性質があることがわかります。では、イザナミはどうでしょうか。

イザナミが病んだとき、鉱物神であるカナヤマビコ・カナヤマビメ、土の神のハニヤスビコ・ハニヤスビメ、水の神のミヅハノメを生み出しています。また、日本書紀の一書では、イザナミは五穀を生み出したワクムスビを生んでいます。このように大地に関係する神様を生み出しているので、地母神の性質を持つことがわかります。

天空神と地母神による天地創造

女神が島々を生む神話は、世界にたくさんあるわけではありません。

ハワイの伝承では、ワケア神はパパ女神と夫婦になり、ハワイ島、マウイ島などの島々を生んだとされています。このようにポリネシアのタヒチやニュージーラントには、類似の神話が残っています。

ニュージーランドの創世記では、原始の混沌から光や音が生じ、次第に神々が生まれ、最後に天空神と地母神が生まれます。混沌から光や音、光や音から神々、さらには天空・地母神へと進化するので、このような天地創造は進化と呼ばれています。

また、サモアの進化型神話は、虚無から香気が生じ、そして塵、見える物、手に取れる物、土、高い岩、小石、山々が生まれます。山々は「気まぐれな逢引場所」と結婚し、塵芥という娘を生みます。最後は人間に至るわけですが、このような神話は一般的に原初の岩が現れ、そこから様々な物が現れるのです。

ポリネシアやインドネシアでも、上述の原初の岩の神話が多いのです。このように、島生み神話と天空・地母神の神話は、お互いに深く関連しているのです。もう気が付いていると思いますが、古事記に記されている神話も同類なのです。オノゴロ島が原初の岩に相当しています。

このことは、日本やポリネシアが同じ祖先を持つことを意味し、これらの文化の母胎は東南アジアであろうと言われています。

天地二分神話(天地剖判神話)

古代ケルト人は、アレキサンダー大王に「怖い物はあるか」と聞かれ、「ケルト人に怖い物はない。ただ空が落ちてくるのが怖い。」と答えました。古代時にとって天空は天上と認識されていたのです。

天地二分神話とは、天上である天空と大地を引き離す神話です。

ポリネシアの天空神ランギと地母神パパはしっかりと抱き合っていたため、天空と大地の幅が狭く、とても暗かったので困っていました。森の神が力づくで二人を引き離し、天が高くなったと神話は語っています。

沖縄の神話では、昔、天地の幅が狭く、人々は地を這って暮らしていました。巨人アマンチュウが不便に思い、固い岩の上で踏ん張り、両手で天空を高く押し上げました。こうして人々は立って歩けるようになりました。

日本書紀の一書には、イザナギが天柱を使い、アマテラスとツクヨミを天上に押し上げたと記しています。

これ等の話しの相同性も日本やポリネシアが同じ祖先が東南アジアの人々であることを支持しています。

まとめ

イザナギ・イザナミは、もともと淡路島の神であり、南方の影響をも受けています。このことは日本人の祖先の一部がポリネシアなどと同じで、東南アジアに端を発する民族だったことを意味します。

この淡路の地方神の天地創造が、古事記編集の際、大八洲を生み出した話に拡大されたのです。

 

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