考え方と歴史

円の思想

日本には、アマチュアの古代史研究家、仏教研究家がゴマンといます。研究材料は学者と異なり学者が記述した本です。プロは遺跡や古事記などの古代文献を研究材料とします。これがプロとアマチュアの違いです。

 

日本的なもの

 

ある日、あるアマチュアの仏教研究家が、「禅と浄土教で日本的な物はすべて説明できる。これらの仏教で説明できない物はあるか。」と、言っていました。「鈴木大拙かぶれもいい加減にして欲しい。」と思いながら、私は神道と答えました。国家神道と間違えたらしく、「あんなものは明治政府がつくりあげた人工宗教、人工文化ではないか。」と彼は答えました。「いや、仏教伝来より神道は古い。」と私が指摘すると、「神道は、すべて仏教に置き換えられてしまった。」と主張するのです。では、「相撲は仏教で説明がつくのか。」と言うと、彼は非常に困っていました。例外として認められました。

 

相撲の土俵は、本来、立ち会う仕切り板、土俵の真ん中の日本の線がなく、単なる円でした。これと関係があるか、ないかは専門家にお任せして、日本の神道は「円の思想」が出発点となっています。もちろん文献などありません。縄文時代以前の遺跡の形態から、このような思想の存在が推定されています。

 

円の思想

 

縄文時代の遺跡は下図のような配置になっています。中央に広場があり、何らかの宗教行事がされていたと推定されています。この広場を囲むようにして人間の住居跡が見つかります。さらにその周りに貝塚が広がっています。広場を中心とした円上に人の居住区があるのは、縄文時代には、まだヒエラルキーがなく、平等な社会であったということが容易に推定できます。問題は、貝塚でした。

 

貝塚というと、縄文人は貝を食用とし、貝殻などを捨てるゴミ捨て場と考えられがちです。だけど、ゴミならもう少し離れた場所に捨てればよいと推定されました。また、貝塚からはいろいろな物が出てきました。使用済みの打製石器や人骨まで出てきました。

 

学者達は貝塚の真の意味について悩みました。ここまで徹底されたゴミ捨て場も珍しいからです。そして1つの結論・円の思想に辿り着きました。

これは真ん中の広場は、神が住む空間であり、その周りに人が住む空間があると考えます。さらに、その外側に死者の世界が広がっていると考えました。貝塚は、死者の世界だったのです。死者は、精霊となり、穢れから人や神を守ります。食物の残骸である貝殻も、食べられる前は生きていたのです。これらの生命に感謝し、貝塚に奉ったのです。食用となった動物の遺体も貝塚に奉ったのです。死んだ人も同様に貝塚に奉ったのです。使用済みの道具にも魂がこもると考えられていて、これも貝塚に奉ったのです。

(武光誠著『神道-日本が誇る「仕組み」』朝日新書474

 

円の思想から日本的精霊崇拝へ

 

明治維新の時、井上哲次郎は「神道は宗教ではない。日本人の慣習である。」と主張し、国家神道の形成を進めました。また、井上円了は「妖怪のような迷信を信じているようでは、日本に近代化はない。」と主張し、日本人から日本精神をなくし、日本人の西洋科学主義化に努めました。だから、神道の基礎みたいな本が売れるのです。日本人なら知っていて当然の話しか書かれていない本が売れるのです。

 

先程、あるアマチュアの仏教研究家が、「禅と浄土教で日本的な物はすべて説明できる。これらの仏教で説明できない物はあるか。」との問いに、相撲と答えた話をしました。実は、こちらは手加減をしてやっていたのです。からかさお化け、提灯お化け、たそがれどき、黄泉がえり=よみがえりなどなど。仏教嫌いの柳田国男がとりあげた話をだしていけばよいのです。

 

話が右や左にそれましたが、円の思想から日本独自の精霊崇拝「八百万神の起源」が形成されていきました。「もったいない」の精神の起源などがそうです。「もったいない」は仏教で説明できるのでしょうか。全ての物に仏性があるとする、本覚思想をもってしても説明はできません。

 

日本人の精霊崇拝の特徴を下記に記します。

 

・亡くなった人間の霊魂は神の世界に帰り、我々を守ってくれる。

・食用となった動物や植物の霊魂が神の世界に帰り、我々を守ってくれる。

・壊れた道具に魂が宿り、この魂が神の世界に住み、我々を守ってくれる。

 

これらの特徴から「もったいない」の精神は簡単に説明できます。食用の動植物をそのまま貝塚に捨てたり、まだ使える道具等を捨ててしまったりすると、どう思いますか。「もったいない」のです。

 

<まとめ>

円の思想により、日本固有の精霊崇拝を形成しました。

死者や食物、使用済みの道具は、自分の役に立ってくれた人や物であり、

命が亡くなっても、自分を守り続けてくれると信じたのです。

 

 

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